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Digital Japan 2030

電子商取引とデジタルマーケティング

Updated: Feb 1, 2021

定義、創出できる価値

電子商取引(e-commerce)が始まって25年以上が経つ。その期間の大部分において、この分野のイノベーションの促進は、インターネット市場やポータルを展開するデジタルネイティブ企業が担ってきた。中でも注目すべきはアマゾンであり、多大なシェアを保持しながら、書籍、電子機器、日用品、自動車部品、その他様々なカテゴリーで「企業と一般消費者間(B2C)」の電子商取引の普及をグローバルに後押ししてきた(すなわち、特定カテゴリーでオンライン購入する人の割合を増加させた)。やがて他の小売業者やマーケットプレイスが頭角を現し、最後に従来の小売業者の中でイノベーションを試みた少数が続いた。これらの企業は、デスクトップPC・モバイル機器用のWebサイトやスマートフォン専用アプリを利用して、自社の電子商取引用の店舗を立ち上げた。 チャネルのシフトへの反応が鈍かった従来の小売業者たちはシェアを落とし、結果的に閉店したり、場合によってはブランドの喪失を余儀なくされたりした。


2020年には、総小売額の約9%が電子商取引を通じて取引された。 2020年8月付けのSimilarWebのデータによれば、日本には電子商取引用のウェブサイトが1万件以上ある。しかし、上位10社の電子商取引ウェブサイトがトラフィックの約63%を占め、毎月15億人の使用者を抱えている。使用者からのアクセスは60%がモバイル機器、40%がデスクトップPCであるが、必需品の購入にスマートフォンを使うユーザーが大幅に増えていることをトラフィックは示している。上位の電子商取引プレイヤーはB2C企業のアマゾンと楽天であり、「消費者間電子商取引(C2C)」ではメルカリなどのプレイヤーが上位にいる。



日本では、特に人口が集中している大都市で、物理的な小売店舗が依然として強力な提供価値を維持している。そうした店舗はアクセスが容易であり、営業時間も長い。有能なスタッフが効率的に運営しており、そうした店舗が利用しにくい地域と比べると、電子商取引との競合度合いも低い。さらに、様々な産業の多くの主要ブランドが、独占的販売を保持するために自社の商品を一般的な電子商取引チャネルから除外している。2020年に経済産業省が推計した2019年度の電子商取引浸透率は7%であり、他の先進国と比べると2桁レベルで下回っている。


こうした要因があるにもかかわらず、Statistaは、日本の電子商取引が今後も拡大し、浸透率も引き続き上昇すると予想している。今後4年間で、全体的な浸透率は11パーセント上昇し、ユーザー1人当たりの平均売上も16%アップする。こうした数値を見れば、数量と金額の両方が増加していることが分かる。ユーザーの70%は35歳未満である。また、決済を簡潔化するeウォレットの選好も増加し続ける。




今後10年間に、デジタル店舗とデジタルマーケティングインフラを確立した企業がその恩恵を受け取る一方で、他は物理的店舗からオンライン店舗に移行する間に売上を落とすだろう。企業にとっての朗報であるのは、電子商取引の価値を新たに取り入れることが、新規プロセスを全般的に構築すると言うより、組み立て直すのに近いということである。利用可能な多くのツールを迅速に組み合わせるだけで、トラフィック、コンバージョン、そして最終的には収益を促進することができるのである。


電子商取引を通じて、高コストの販売形態から低コストのチャネルへと収益割合を移行させることで、大幅に価値を増大させることができる。従来の小売業者にしてみれば、今は顧客選好の変化に対応するための必要な防御手段に過ぎないとしても、よりクロスボーダーな販売が可能になるにつれて、価値を拡大する手段ともなり得るのである。


他のあらゆるタイプのデジタル変革と同様に、電子商取引にとってサイバーセキュリティは成功の鍵である。日本でも電子商取引サイトでのデータ漏えいが大きな問題になった。実際、不正利用によるクレジットカード取引の被害は2019年には274億円に達し、2014年との比較で140%増加している。2018年に、日本はウェブサイトを詐欺から保護するための措置を実施し、商法を改正して、企業にチップを搭載したカードプロセッサーを採用するか、またはクレジットカードの詳細データを保存しないこと、およびPCI DSS (クレジットカード業界の情報セキュリティ基準)に準拠することを義務付けた。


現況

以下の表が示すように、デジタル商取引の収益にはいくつかの要因がある。まずは、様々なデジタルマーケティングツールによって生まれるトラフィックが挙げられる。こうしたトラフィックは、ユーザーに提示される内容や速度に応じて急変する場合がある。例えば、概してユーザーはローディングの遅いサイトを敬遠する傾向がある。また、コンバージョンは買い物のしやすさや配送の便利さと相関した要因によっても変動する。ユーザーは価格や割引のオファーに基づいて、所定の金額を払う決心をする。最後に、期待に満たない品物はキャンセルや返品されることも多く、返品率が高くなる可能性がある。こうした関係性は厄介なものであり、多様な戦術をテストし学習するために、専門の電子商取引組織が必要となる。



日本の企業は出発点として、デジタル化の収益を促進する要因のどれかを刺激するために、1,000以上もの様々な技術を活用できる。それらはオンラインで簡単に調達可能で、「aaS(as a Service)」として利用できる。しかも多くの場合、多額な前払い費用は不要である。電子商取引の取りかかりに利用できる主だったものをいくつか挙げれば、以下の通りである。

  • 総合的な電子商取引プラットフォーム: 今ではオンライン販売用の完全なサイトを簡単に作成できる。Adobe MagentoやShopifyなどのソリューションを使えば、手ごろな前払い費用で、自身の店舗を立ち上げることができる。

  • トラフィック: WordPressのようなコンテンツ管理システムやYouTubeのようなビデオホスティングプラットフォームを使ってオンラインコンテンツを作成し、次いでトラフィックを増やすためにインデックス付けする。さらには、Google Adsや Microsoft Bingで「キーワード」を購入するなど、広告連動型検索トラフィックにマーケティング予算を投資することができる。Adobeなどの企業のツールを利用してメールキャンペーンを実施し、トラフィックを増加させたり、Facebookなどのソーシャルネットワークからハイパーターゲット広告を購入したりすることも選択肢になる。これらのチャネルにおけるデジタルマーケティング費用はクリック率(CTR)に基づいて正確に測定できる。

  • 直帰率: ウェブサイトをデバッグし、ローディング時間を短縮して、消費者にスピーディーな体験を提供するツールがいくつも存在する。例えば、GoogleのPageSpeed Insightsは、消費者が期待する速度になるまでウェブサイトを効率化する戦術的方法を特定するのに役立つ。Tealiumなどの他の技術は、迅速なユーザー体験の創出に向けてサイトがロードする対象やタイミングを最適化できるよう支援する。

  • コンバージョン: Algoliaなどの技術は、ユーザーが商品を簡単に見つけられるように、スムーズな視覚的サイト検索を可能にする。一方、概してコンバージョンは購入完了までに必要なクリック数を最小限にする工夫を採用しており、過剰にならない範囲の適切な情報量をユーザーに提供する。

  • 平均注文金額: オンライン販売者が採用可能な、商品を追加で「推奨」するシステムには多くの選択肢がある。Amazon Personalizeや他のツールを使えば、推奨エンジンを簡単に利用できる。また、オンライン価格はダイナミックであることが多く、ウェブ上でダイナミックプライシングを可能にするツールも多数存在する。

  • キャンセルと返品: Zendeskや会話型チャットボットなどのエンドユーザー向けサービスツールは、キャンセルや返品といった指標を最小化することを目的としながら、顧客の苦情にタイムリーに対処することを支援する。

上記に説明したように、電子商取引は、多くの小規模技術の結合を必要とする組立プロセスものであり、それらの小規模技術は他と組み合わさることで収益の増大に寄与する。今日、これらの技術はいずれもクラウド上で利用できる。


今後の技術発展の方向性

利便性と個人的な選択がしやすいことから、消費者は電子商取引の拡大を支持すると思われる。同時に、電子商取引技術自体も、特に顧客の購買タイミングや理由の予測精度が向上するよう進化し続けるだろう。考えられる発展の例として下記が挙げられる。

  • モバイルコマース: モバイル機器による電子商取引のシェアが増大し続けていることから、顧客体験の設計は、デスクトップコンピューター優先ではなく、モバイル向けの応答能力を備えた、スマートフォン優先のものにすることが求められるようになる。

  • 会話型コマース: コマースの大規模シェアはAmazon AlexaやGoogle Homeなどのスマートスピーカーデバイスによって実現されるだろう。これらデバイスにより、できるだけ抵抗感の生じない形で家庭用品の再注文やなじみの品を購入することが可能にする。

  • ソーシャルコマース: ソーシャルネットワークと電子商取引の関係性が増大し、ユーザーはインフルエンサーの持っている商品やブランド品を購入できるようになる。

  • メッセージングアプリ: 他の新興チャネルとして、メッセージを送信して商品が購入できるチャットボットやその他のメッセージングアプリがある。

  • 機械学習を駆使したデジタルマーケティング: 機械学習がデジタルマーケティングのほぼ全領域で活用されるようになり、効果の高い宣伝・広告や併せ買いされやすい商品の予測、ダイナミックプライシングの運用、その他様々な領域で精度が向上する。


将来の主要な適用事例

電子商取引の拡大は小売分野だけの現象に留まらず、工業分野でも商品やサービスのオンライン販売が増加している。日本経済の主要な産業分野で適用可能な事例を下記に提示してみる。


オムニチャネルリテール: モバイル機器やPCのウェブページ、モバイル専用アプリ、実店舗など様々なチャネルでの購買を可能にするオムニチャネル経験を提供する。顧客は購買ジャーニーをシームレスに開始することができ、どのチャネルでも支払いが行える。他にも梱包や配送の選択肢が多様化できる。


工業分野のアフターサービス: 多くの工業メーカーにとって、売上や利幅の大きいアフターサービス用部品の販売はビジネスの重要な一部であり、電子商取引の利用を促進する要因になっている。現在では自動車の購入といった高額な取引さえオンラインで行われるようになってきており、今後も増加が見込まれる。


不動産: 新規の賃貸契約や不動産購入時の物件の閲覧、申し込み、契約実務などをシームレスに行うにはオンライン環境が適している。顧客はインターネットで物件を探し、リストを絞り込んで検討することができる。


上記に挙げた事例はほんの一部にすぎない。ご察しの通り、ほぼ全ての産業は、上記に示したようなトラフィック生成・直帰率の低下・コンバージョン率の向上・取引成立という一連の流れに沿うことで、顧客に提供できる何かしらの価値を持っているはずである。

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